「持ち家か賃貸か」「戸建てかマンションか」…ついに正解がわかった、という記事があるのだが

私も連載させてもらっている現代ビジネスに、標記タイトルの記事がある。あくまで媒体に対してではなく、この記事自体について、かなり誤解をさせるものがあるので、賃貸派としてしっかり論評をしておきたい。なお、この記事、結論は

>可能であれば購入することをおすすめします。

とのことで、持ち家派なのだが、前提に間違いが多い。以下、みていこう。

>なぜかといえば、老後対策です。

老後対策というのは、単に住居費を下げればいいというものではないと思います。それこそ投資でなく貯金ばっかりしてきた日本的な考え方ですね。とにかくお金を貯めて、あとは死ぬまでに底をつくことのないように恐る恐る取り崩していくことしか頭にないから、家賃を払い続けるのがもったいないという発想になる。そうではなく、資産運用をきちんとやって、公的年金以外にも月何万円かの収入が入り続けるようにすればまた話は違うと思うんですよね。

>賃貸では生きているかぎり家賃が発生しますが、持ち家なら必ずかかる費用は固定資産税くらいのものです。

持ち家なら固定資産税しかかからないから月1~2万円で済むよ、ってほんとですか?まあ戸建てならどんなに隙間風が吹きすさぶボロ家でもカネを惜しんで修繕せず住み続けることはできるかもですが、集合住宅の修繕はみんなで決めることなのでそうはいかないでしょう。そもそも共益費(管理費)の支払いがないとでも?

>マンションなら断然築浅の中古がおすすめです。

沖式住宅投資法のように10年ごとに転売を繰り返す方式ならともかく、そうでなく終の棲家を考えるのならば、築5年くらいの築浅中古を買ったとしても、いずれ修繕積立金や管理費の上昇からは逃れられません。まあ、利便性の高いマンションを買えば資産価値が落ちることは避けられるでしょうが、「隠れ家賃」が月3~4万発生することを無視するのはどうなんでしょうね。

木造の戸建てと鉄筋のマンションでは、耐用年数が違います。法定耐用年数は、鉄筋コンクリート造りのマンションが70年、木造戸建てが33年です。築10年の差があっても、マンションに軍配が上がります。

まあ、これは正しいかな。一戸建ての建物は、30年過ぎると価値はほぼゼロと言われることを考えると、新築を立てたときの建設費が仮に2000万円だとすると年間666万円、月当たり5.5万円償却している計算になります。30年住めば普通は外壁や水回り、冷暖房の修繕更新にも少なくとも500万円くらいはかかっているはずなので、月当たり1万円程度加算。ここに固定資産税を足すと、分譲一戸建てに住むと、安くても月7~8万円は払っている勘定になると思われます。

一方マンションだと上記の通り隠れ家賃は築浅でも普通に4万円くらいかかります(築古になってくると修繕一時金の負担を含めると月6万くらいになることは十分考えられる)。資産価値がほぼゼロになる前に売り抜けられれば何千万円かの建築費がまるっと減価することはないので、まだマシ、ということではあるのですが、持ち家推しの理由に、老後対策で支出を減らすためというメリットばかり強調するのはいかがなものかと思いますね。

吉祥寺だけが住みたい街ですか?

「住みたいまちランキングの罠」を書いたとき、中で吉祥寺のことを言及した。文中にも書いたが私は吉祥寺には自転車で行けるエリアが生活圏だったことがあり(ただし、最寄り駅は吉祥寺ではない)、執筆に当たっては久々に何度か現地視察に行き写真も撮り、まちの変貌を再体験した。

一方で、見出しのような題名の漫画があることは知っていたが、当時はあえて読まずに自著を書いた。

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そして1年半が経ち、何のご縁か、この漫画を手に取る機会があった。私自身、「住みたいまちランキングの罠」の執筆に当たり分譲派から賃貸派に転換し、同居人を説得してその後自宅マンションも売った(その体験記はまさに現代ビジネスで連載中)。これからは一生賃貸でいいやと決め込む中で、賃貸・引っ越しが前提の街選び漫画と出合ったのは不思議な気分である。以下、まち・不動産業界評論っぽく感想を書いてみる。

吉祥寺にある不動産屋に転居先探し中の(いま一人暮らしか、実家から独立、離婚で一人暮らしを始める)女性客がやってきて、当地の物件を探そうとするが、主人公(双子女性)は客の転居理由を聞いているうちに吉祥寺以外のまちがふさわしいと判断。ほぼ毎回、目的のまちへの案内を強行する。移動した先ではグルメスポットなどを紹介し、不動産屋が客に軽食をおごったりもする。多くの場合、客がそのまちのすばらしさや特徴ある物件スペックに魅了されてそこに決める、というパターンの物語。

手数料がたかだか家賃1か月分にしかならない賃貸仲介で、同意するかもわからない1件の内見にそんなに手間暇(+おカネ)をかけるわけねーだろ!と言う突っ込みは野暮だろう。刑事ドラマだって学園モノだって、リアリティがありそでないんだから。面白いストーリーは、事実では作れないのだ。

要するにこの漫画がやりたいことは、一種の「アド街」なのだろうことはわかりつつ、それを理解すればするほど、自分も「ああこの町に引っ越したい」という気分に駆られる。 ああ、賃貸派になっていてよかった、と思う瞬間だ。

もっとも、この漫画は、冒頭で紹介した通り、独身一人暮らし女性の新たな住まい探し、というのが基本モチーフになっていて、所帯じみた人々の新居選びの話は今のところ出てこない。そういうモチーフを示して、(子どもの転校を伴ってでも)転居暮らしも悪くないね、みたいなチャレンジングな漫画が出てくると面白いんだけどな~。

現代ビジネス記事「定年後に「持ち家を売った」年金暮らし夫婦たち、そのヤバすぎる末路」について

大原の連載記事がWEBアップされたのの確認ついでに現代ビジネスを見ていたら、表記の記事が目に留まった。紹介されている事例をざっと要約するとこんな感じ。

  • ①郊外の一戸建てを処分し、都区内の築古マンション購入→駐車場代や維持費・修繕費などのランニングコスト増で年金生活にはこたえる。郊外は不便だったが維持費が安く済んだのに…。それでいて、住人の退去が続きゴーストマンションになったらどうしようと心配している。
  • ②駅遠一戸建てを処分し、駅近賃貸マンションへ移住→妻の病気・入院などで貯金がどんどん減り将来不安。負担減のため再度引っ越しするのも困難。さらにいずれ賃貸貸し渋りが起きるかもという不安も。
  • ③築古一戸建て+土地を処分→建物は無価値と査定され、建物除却費用などが必要になった上、土地の売却価格も値下げを余儀なくされた。思ったよりお金が残らなかった。

こういう事例を挙げて、老後に安易に持ち家を売らないほうがいいよ、という主張。わからなくもないが、逆にこの人たちが家を売らずに済み続けていたらどうだったのかという対照実験をしたわけではないので、結果論としか言いようがない面もある。特に①は「年金生活者が安易に持ち家を売ってはダメ」かもしれないが、「物件選びにもよるけど、やっぱり持ち家はダメかも」という主張にもつながるから、このサイトの主張を力づけることになる気もするし。

③なんかは、こういう話があればあるほど、資産を守るという意味でこそさっさと売っちゃいなさいな、ともいえるのではないだろうか。

これからの時代は、安心して住めるコスパの良い賃貸こそがきっと求められるはずなのだ。良質な空家の賃貸活用、これだろ!

不動産業界の闇

いま、現代ビジネスに連載中の、仲介会社を使わずにマンションを売った話については、今後不動産業界の闇みたいな話を書いていくことになるんですが、ネットを調べていたら、不動産業界の悪慣行について3年ほど前にワールドビジネスサテライトで取り上げた動画がありました。いい証拠になるのでメモとして残しておきます。

新年の新聞に住宅広告特集

正月の新聞といえば、本編以外に別刷りの特集面があるのが恒例。今年は住宅広告特集もあった。といっても個別の物件情報ではなく、消費税増税を受けての住宅取得支援制度だったり防災関連だったりの情報。SUUMOのキャラクターが随所に登場すると思っていたら制作協力がリクルートだった。広告を載せているの(=紙面制作費の負担者)はマンションデベではなく戸建てを作るハウスメーカーがほとんど。

まあ、住宅展示場は閑古鳥が鳴いているなんて話もあるし、必死なんだろうね。そもそも戸建ては、駅近だと敷地が確保しにくい、あっても狭い、それで3階建て(住みにくい)…結局郊外や駅遠物件になり、確実に維持費がかかる上に資産価値も落ちる、同じ金を払うなら都心マンションだろ、という流れになりつつあるようだ。

個人的には、子どもが小さい頃だけ郊外の庭付き戸建てに住むというニーズはあっていいと思うので、賃貸市場が活性化することを期待しているのだが。